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教授挨拶
Professor Hirasawa

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教授 平沢晃

2026(令和8)年 年頭挨拶

「攻めの予防医療」としてのゲノム医療の展開を目指して

新春を迎え、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

岡山大学病院が立地する岡山市北区は、江戸時代に緒方洪庵先生が生まれた地です。洪庵先生は牛痘種痘の普及に尽力し、幕末に猛威を振るった天然痘の予防法を確立されました。明治維新以前から予防医療を導入してきた歴史こそが、世界に冠たる日本の衛生環境と医療体制の礎となっています。コロナ禍を経て、その重要性は再認識されています。

さらに今、私は千円札を手にするたびに、胸を締め付けられる思いがします。「近代日本医学の父」であり「予防医学の父」と称される北里柴三郎先生の眼差しを感じるからです。 「我々後世の日本人は、先生の志を真に受け継げているのか、先人達に顔向けできる医療を実現できているのか?」 そこにあるのは、病に苦しむ人々だけでなく、病気の発症リスクが高い可能性がある人も関わらず予防医療に導くことが出来ない現状への憤りにも似た焦燥感と、責任の重さです。

だからこそ、本年は声を大にして申し上げたい。わが国が進める「攻めの予防医療」とは、まさに我々が担う「ゲノム医療」そのものである、と。

ゲノム医療とはわが国では以下のように位置づけられています。

ゲノム医療
「個人の『ゲノム情報』をはじめとした各種オミックス検査情報をもとにして、その人の体質や病状に適した『医療』を行うことを指す。具体的には、質と信頼性の担保されたゲノム検査結果等をはじめとした種々の医療情報を用いて診断を行い、最も有効な治療、予防および発症予測を国民に提供することを言う。 ここでいう『ゲノム情報』とは、生殖細胞系列由来 DNA 等に存在する多型情報・変異情報や、後天的に生じるゲノム変化(がん細胞に生じた体細胞変異)、ゲノム修飾、健康に影響を与え得る微生物群(感染病原体など)のゲノム情報を指す。」

(ゲノム医療実現推進協議会報告書 平成30年8月より)

さらに、がん領域においては次のように定義されています。

がんゲノム医療
「がん患者の腫瘍部および正常部のゲノム情報を用いて治療の最適化・予後予測・発症予防をおこなう医療(未発症者も対象とすることがある。またゲノム以外のマルチオミックス情報も含める)」

(がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会 報告書 厚生労働省HP 平成29年6月27日より)

これらが示す通り、個人のゲノム情報を読み解き、発症を予測し、先回りして介入する。これこそが究極の「攻めの予防」です。例えばがん発症に関わる遺伝子は1990年代に次々に同定されてきました。すでに30年以上経っているにも関わらず、「攻めの予防医療」として実装されているのは限られていました。昨年は「遺伝性腫瘍症候群に関する多遺伝子パネル検査(MGPT)の手引き 2025年版」が発刊されたので、この状況が少しでも進めば良いと願っております。

病による悲しみの涙を一つでも減らすために。緒方先生、北里先生ら先人が灯した予防医療の火を、ゲノムという新たな道しるべをもとにさらに強く輝かせること。それが、令和を生きる私たちの使命であり、責任であると信じます。

本年も、教室員一同、熱い志を持って邁進する所存です。

平沢 晃
岡山大学学術研究院医歯薬学域 臨床遺伝子医療学分野・教授